何だかすごい映画を観た。
『マタインディオス』という。意味はスペイン語で「先住民殺し」。
長年、仕事を手伝って下さる長沢義文さんが、ペルーに魅せられ、ペルー映画を配給上映する、ブエナワイカ https://www.buenawayka.com/ をたちあげた。ペルーを一つのキーワードとして繋がれるような、交差点的な場になればいいなと思って付けたそう。
私は、なぜ彼がそこまでペルーに入れ込むのか知りたくて、昨年秋、長沢さんが主催した日本初のペルー映画祭に行った。そこで観た数本の中に、『マタインディオス』があった。最も心ひかれた、静かで不思議な映画だった。
その時点で、スペイン語に疎い私は、タイトルの意味を知らなかった。観ながら、ああだろう、こうだろうと想像し、最後が衝撃的だった。もう1回観たいと思った。
イメージフォーラムで公開中なので観に行き、ゲストの太田昌国さんの明快な解説で、一挙に謎が解け、心の中ですごい、とうなった。
スペイン人がインカ帝国を滅ぼし、あちこちにカトリック教会を建てたことは、知ってはいた。それ以前に、「マタモーロス」という言葉があったという。イスラーム殺し、だ。イベリア半島からイスラム教徒を追い出す戦いの中で、彼らの軍神となったキリストの使徒、サンティアゴ(聖ヤコブ)の別名だ。馬に乗り、剣を持ち、マントをひるがえしている。
映画の舞台は、山中の小さな村。そこの守護聖人はサンティアゴ。登場する人々は、神父役の一人を除き、素人である村のインディオたち。しかも全てが監督の家族か親戚だそう。皆、本当にいい顔をしている。そこにしかない土着の風景も魅力的だ。
自分たちを征服したスペイン人とキリスト教徒の軍神を、村の守護聖人として祀る矛盾。
次第に、村人の中に不満も芽生え、最後に率直なこどもたちが・・・・。
監督のオスカル・サンチョスによれば、この映画には二つのテーマがある。ペルー人が抱えている歴史的な痛み。スペインによる暴力的な支配によって生じた痛みで、子どもの頃から見てきた苦痛だ、と。そして支配的な文化と被支配的な文化が、不平等な形で出会った結果である、文化の変容過程。これについては、彼らが演奏する音楽に、深く感じるところがあった。
ペルーでは、こうした映画を<地域映画>と呼ぶのだそうだ。
この映画はいくつかの映画祭で上映され、賞をもらったが、世界中で日本が初公開だそうだ。ペルーでの公開は7月14日から。監督は、衝撃的なラストシーンに、国内の観客がどう反応するか、心配しているとのこと。つまり、”覚悟の作”である。
私はこれを聞いた時、改めて長沢さんの慧眼に感心した。
ともかく観て下さい。
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